【名著の森2】人の可能性を信じる:デシ『人を伸ばす力』

「名著の森」シリーズとは

流行は移ろうもの。

今年流行した本は、来年には誰も読んでいないかもしれない。

しかし、時代が変わっても読み継がれる本もある。

この「名著の森」のコーナーでは、私「なむ」が、「この本は一生本棚に置いておくだろう」と考えている「名著」を紹介していきます。

「名著の森」二冊目

二冊目は、こちら。

デシの『人を伸ばす力』です。

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本書がおすすめの方はこちら!

  • 「自分のモチベーションを上げたい!」という人
  • 「部下や子どもをうまく育てたい!」という人
  • 「生きる意味について悩むことがある…」という人
なむ

読むと、「生きる活力」が得られる本です。
人の可能性、自分の可能性をもっと信じよう、と思える!

著者のエドワード・L・デシ先生は、心理学の分野では非常に著名な研究者です。

「アンダーマイニング効果」と言えば、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

アンダーマイニング効果とは

金銭や賞品など外から与えられる報酬が、もともと持っていた内なる動機づけをかえって低下させてしまう効果

ふつう、報酬をもらったら、動機づけは増すというのが常識ですね。

しかし、報酬を渡すことで、もとから「楽しい」「好きだからやるのだ」というような「内なる動機づけ」を持っていた人のやる気をかえって削いでしまうのだ、ということをデシ先生は明らかにしたのです。

そのような「内なる動機づけ=内発的動機づけ」を重視したモチベーション理論をデシ先生は展開しており、

本書『人を伸ばす力』は、まさにそのモチベーション理論のエッセンスを凝縮した内容となっています。

デシ先生の理論によると、「内発的動機づけ」が育つための重要な要素は以下の3つです。

  • 自律性:人は「自分で選んでいる“感”」を欲する
  • 有能感:「できるようになる」ために人は頑張れる
  • 関係性:人は人の間に生きる

順番に見ていきましょう。

自律性:人は「自分で選んでいる“感”」を欲する

「完全に何もかも思い通りになる」という意味で「自由」な人はこの世界に誰ひとりいません。

「生きるために働かなくてはいけない」

「将来就職しやすくするために、勉強しておかなければいけない」

「お金が足りないから我慢するしかない」

人間は誰しも、「社会」に生きていて、その社会のゲームルールによる制限の中で行動しています。

「自分の欲求」 vs 「社会からの要請」の対立構造の中で、可能な限り「自分の欲求」を満たす努力をして生きている、とも言えるでしょう。

とはいえ、皆が「自分の欲求」ばかり優先していては社会が成り立ちませんし、

自分の子どもがそのような人に育っては、社会で生きていけるか心配になってしまいますね。

そのため、例えば、親や学校から子どもへ、会社から社員へ、往々にして「社会からの要請」が圧倒的に強く働いてしまいます。

それは、本人の自由を許さず、やるべきことを要求する「統制的」な環境です。

しかし、「統制」では人は動かない、というのがデシ先生の主張であり、

その背景にあるのは、人間が持っている「自律性の欲求」です。

この世界に、好き放題の完全な自由などない。

しかし、「これは自分が選んだ」「自分で決めたのだ」と思うと、人は頑張れる。

本当に自分が選んだかどうかというのは実は重要ではない。

「自分で選んでいる“感”」を持てることが重要であり、それを感じられるような支援をすることによって、人は初めて本気で動き始めるのです。

「自分で選んでいる“感”」を持てるようにすること

有能感:「できるようになる」ために人は頑張れる

「自分で選んだ」という感覚を持っていたとしても、それだけで十分ではありません。

「三日坊主」と言うように、「やろうと決めたけど続かないこと」はいくらでもありますね。

自律性の次に大事なのが、「有能感」であるとデシ先生は言います。

自分で選ぶだけでなく、「自分ならできる」という感覚が大事なわけですね。

「有能感」を持つポイントとして、本書では以下のようなポイントが挙げられています。

  • 「行動したらちゃんと結果が変わる」と思えること
  • 「その行動を自分ができる」と思うこと
  • 「最適なレベルの挑戦」と感じられること

それぞれ、「社会的学習理論」で言うところの「結果期待」「効力期待」(有名な言い方でいうと『自己効力感』のお話)、そして「フロー状態」と対応していますね(このあたりの内容もいつかまとめたいと思います)。

まとめると、

「結果につながる行動」を「自分ができると思うレベル」で、しかも「少し背伸びしたレベル」で、実行すること

と言えるでしょうか。

「結果につながる行動」を
「自分ができると思うレベル」で、しかも「少し背伸びしたレベル」で、実行すること

関係性:人は人の間に生きる

「自分の欲求」vs「社会の要請」、という話を先ほどしました。

自分の欲求と、社会からの要請、その折り合いをどうつけるか。

デシ先生は「有機的統合理論」において、「外からの統制による動機づけ」と「内なる動機」の間にある、「外からの統制を自分の中に取り込んで内なる動機に変える」という「取り込み」の過程を説明しています。

例えば、最初は半ば強制的に始めたボランティア活動だったとしても、「大学入試でアピールできる活動経験になる」、さらには「将来の自分が働くときに役にたつ経験をしている」のように思うことで、自分にとっての意義を感じられる活動に変わっていきます。

「外からの動機」と「内からの動機」で完全に二分されるのではなく、その間のグラデーションがあるわけです。

この「グラデーション」は、「自分の欲求」vs「社会の要請」という難しい問題を乗り越えるための鍵になります。

初めは「社会からの要請」として押し付けられたものであっても、徐々に「自分の欲求」も満たせるものに変わりうる、というわけですから。

では、この「グラデーション」をどう渡っていけばよいか。

その鍵となるのが「関係性」です。

そもそも「自分の欲求」vs「社会の要請」というのは、本当に二者択一のバトル構造になっているのか。

ここに「他者の視点」を入れると、実は「自分の欲求」は「社会」と矛盾するものではない、ということに気づきます。

人が喜んでくれること、人が楽しんでくれること、人が感謝してくれること。

そうしたことは誰にとっても嬉しいし、そうした瞬間を求めていない人はいないでしょう。

人が人と絆で結ばれていたいと思う「関係性の欲求」に依って立つならば、「人のため社会のため」が「自分のため」にもなりうるわけです。

「自分のため」に「求める」よりも、「人のため」に「与える」ことを考えることが大事だと言えるでしょう。

「自分のため」に「求める」よりも、「人のため」に「与える」ことを考える

まとめ

以上、デシ『人を伸ばす力』のご紹介でした。

あらためて、ポイントをまとめます。

  • 自律性:人は「自分で選んでいる“感”」を欲する
  • 有能感:「できるようになる」ために人は頑張れる
  • 関係性:人は人の間に生きる

「アンダーマイニング効果」などは「どこかで聞いたことのある話」だったと思いますし、

自律性、有能感、関係性にしても、いずれも「当たり前じゃん」と思う内容ではないでしょうか。

しかし、その根底には「人としてどう生きるか」という哲学があることを、少し感じていただけたのではないでしょうか。

これだけ恵まれた現代にあって、なぜ生きる活力を持てない人が多いのだろう。

自分はこんなに恵まれた環境にいるのになぜこんなにだめなんだろう。

この成熟しきったような社会で、何か頑張る必要があるのか。

なぜか、そんな無気力感が満ちる現代社会。

デシ先生の理論はその謎を解き明かし、デシ先生の言葉は人間が前を向いて自らの人生を生きるための活力を与えてくれます。

ぜひ皆さんも手に取ってみていただきたいですし、誰かに贈っていただけたらと思います。

ということで、二冊目の今回は、デシ『人を伸ばす力』でした。

また、次回の名著の森シリーズもお楽しみに。

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